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Jun 10, 2008
vol.5 『ラストエンペラー』 ベルトルッチとストラーロ。繊細さと執念が生んだ名作。
1987年度(第60回)アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚色賞等、演技部門を除く主要9部門を独占した名作だ。満州映画協会(満映)の理事長・甘粕正彦役で出演もしている坂本龍一がデヴィッド・バーン、スー・ソンと共にオリジナル作曲賞を受賞したことは、当時、映画界で最も大きな出来事だった。今回のDVDは、1988年1月に松竹・東急洋画系でロードショー公開された2時間43分のオリジナル版ではなく、ベルナルド・ベルトルッチの意を汲み製作のジェレミー・トーマスが56分もの場面を追加した〈ディレクターズカット版〉である。史上初となった紫禁城内でのロケ場面がかなりの分量、追加されている。6年程前に紫禁城内を見学したことがあるが(隅々まで見るには丸2日掛かる!)、今回のディレクターズカット版を観て、北京の下町方面へと抜けることができる城の裏手でも撮影されていたことに驚かされた。幼少の溥儀が行進する石畳の中央広場、その周りにある棟の回廊だけが撮影されていない。中国最後の皇帝・溥儀(ジョン・ローン)の側近を含む臣官らが中国軍部によって城から追い出される場面は、紫禁城裏門の巨大な城壁の周辺で撮影されている。普段、観光客でもなかなか行かない場所である。〈ディレクターズカット版〉を観ると紫禁城を見学した気分になれる。
DVD 「ラストエンペラー ディレクターズカット」 東北新社 TBD1151
(6月13日発売 3,990円/初回生産限定版) ※本篇219min./スクリーンサイズ2.00:1
BD 未発売
この作品でアカデミー賞撮影賞を受賞したヴィットリオ・ストラーロは紫禁城内での大ロケーションを前にして、現地の中華電影公司の係官に「城の一部に火を放ってもいいか」と真顔で訊いた。係官は「気が動転したような表情になった」そうで、もちろん中国が世界に誇る「世界遺産」に火を放つことなど許されるわけはない。ストラーロが何故そんなことを訊いたのか、これまでのオリジナル版からは判らなかったが、この〈ディレクターズカット版〉を観て納得。紫禁城を取り囲む町の一部が戦火で炎上する場面があった。その場面を更に迫力あるものにするため、ストラーロは紫禁城も燃やしたくなったのかもしれない。
この〈ディレクターズカット版〉、音が素晴らしい。冒頭、戦犯容疑で逮捕されボロボロになった溥儀がリストカットするくだりから、音楽と場面の背景となる効果音のミキシングの良さに惹き込まれる。中盤に描写されている溥儀が主催する夜会の場面では、女性たちのドレスが擦れる音が聴こえ、夜会に集った男女の囁き声まで拾っている。細かい音をたくさんミックスさせながらその場面の効果を盛り上げている。B・ベルトルッチの繊細な演出に酔う。この音の良さで公開時に観たかったなぁ、とつくづく思わされた。溥儀が忽然と現れ、少年に埃をかぶった虫籠を手渡し、そして姿を消すラストの音楽の澄み切った響き。アカデミー賞受賞もうなずける。『レッズ』(1981、ウォーレン・ベイティ)のラストシーンと共に忘れることのできない、V・ストラーロ撮影の名場面である。
Text by 田沼 雄一/Yuichi TANUMA(映画評論家)
2008 06 10 [Pick UP! DVD] | 固定リンク
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